中華風の豚の角煮、東坡肉(トンポーロウ)。日本でもたまに中華レストランのメニューに見かけるし、ある程度知られている中華料理だと思う。だが中国では一般的に浙江料理に分類され、特に杭州の名物料理だということはあまり知られていないようだ。
東坡肉の東坡というのは、宋代の詩人蘇軾の名乗った号『東坡居士』から取られている。この東坡肉の名前の由来については、以下のように語られている。
蘇軾は四川省の出身だが、人生において二度ほど左遷されている。一度目は湖北省の黄州で、赴任した際に自らを東坡居士と号している。黄州は素晴らしい豚肉の産地で、このときに東坡肉の原型となる豚肉の醤油煮込みを考案したとされている。ちなみに以前の記事でも触れた通り、中国語では醤油煮込みのことを紅焼という。
その後、蘇軾は二度目の左遷で杭州にやってくる。その杭州で西湖の治水工事を行ったのだが、住民たちがそのお礼に豚肉と紹興酒を献上した。蘇軾は使用人にその豚肉と紹興酒を使って紅焼を作らせて、工事に貢献した住民に振る舞った。これが美味しいと話題になり、東坡さんのお肉→東坡肉と名付けられ、杭州のお店のメニューに並ぶようになったのだという。
蘇軾の出身の四川省やその他蘇軾のゆかりの地でも、東坡肉が名物となっている地はあるらしいが、上記の逸話のもっともらしさからすると、杭州が本場ではないかと思われる。
杭州にある杭州料理を謳うレストランなら、高級店から大衆食堂まで、たいていメニューに東坡肉はある。値段は大衆食堂なら200~300円くらいだ。高級店ならその数倍を覚悟した方が良い。
両方の写真ともに杭州で撮ったものだが、上の写真はかなり良いお店、下の店は大衆食堂のものだ。もちろん高級店の方が美味しいことは美味しいが、東坡肉の味だけに限って言えば、値段ほどの価値があるかというと難しいところだった。大衆食堂が素晴らしかったのか、高級店がイマイチだったのか、その両方かはわからない。
いずれにせよ、甘辛く煮込んだ脂が舌の上で溶けていく感触は、お腹が減っているときには甘美と言える。ただ年をとってきて、ちょっと脂のきついものが苦手になっていることもあって、私的にはそんなにたくさんは要らない。
【写真】上:2007年8月 下:2014年1月
【文章】2017年8月
【文章】2017年8月