その日、私は大阪から東京経由で厦門に飛び、厦門の空港から、そのまま厦門の市街には行かず、泉州行きのバスに乗って、泉州市までやってきた。初の泉州市、初の福建省だった。
バスが到着したのは泉州航空飯店というホテルの前だった。この日の宿は予約していたが、ここから1~2㎞ばかりあるようだった。私の旅では、新しい街に来たら、その雰囲気を感じるために、まずはぶらぶらと歩いてみることも多い。ちょうど良い機会なので、フラリと歩いて、この日の宿まで向かうことにした。
歩き始めてすぐ左側に、写真のような大きな栗を売っている店があった。蒸した栗だろうか。子供の拳くらいはある大きな栗に、少し気持ちが惹かれた。
だがこの時はまだ投宿もしていないのでキャリーバッグも抱えている。泉州の名物だったら、きっと宿の近くでも売っているだろうし、後に来ることもできる。まずは投宿して落ち着こう、また機会もあるだろうということで、スルーしてしまった。
だが結果だけ言うと、この後も泉州市内ではほとんど蒸した大栗には出会わず、また市内を巡って宿に戻った後でわざわざ栗だけのためにここに来るには疲れていたりして、結局食べそびれてしまった。
旅の出会いというのは縁やタイミングのものだとつくづく思う。それは人だけでなく、モノや場所や事象であっても同じで、出会った時に直感的に行動しないと、機会を逸してしまうことも多い。だが、それも悪いことばかりではない。その代わりにできることもある。それに、もし次に訪れることができた時のために、楽しみを取っておいたと思えば良いのだから。
【写真】2019年1月
【文章】2019年12月