1997年の夏、私はロンドンに居た。初の渡欧だった。
当時の私は大学を卒業して就職後数か月の社会人一年生だったが、英語力はそりゃあひどいものだった。TOEICで言えば300点程度、会話は今の高校生の方がよっぽどできると思う。そんな私がなぜか旅先にイギリスを選んだのは、ミュージカルのCATSをオリジナルで見たかったのと、美味しい紅茶を求めてのことだったが、この話は別の記事でも書いているので、ここでは割愛しておこう。
とはいえ、ロンドンの人々は私のつたない英語でも、和やかにわかるまで聞いてくれたように思う。後にアメリカに何度か訪れることになるが、同じ英語の国ということでアメリカと比較してもロンドンの人は比較的ノンネイティブに対して辛抱強く寛容だった印象がある。もちろん昔の話であるし、私個人が接した範囲でしかないことは承知している。
ただそういったイメージや感触は覚えているものの、行った場所やその多くの光景は残念ながら時と共に記憶から消え去りつつある。デジカメもなかった当時ではカメラや写真は高価なもので、旅の備忘録的に手当たり次第スナップ写真や食べ物等を撮るという感覚はなかった。故に、昔の旅の写真を見返してみてもありきたりの観光名所の写真、あるいは変わったポーズをして撮ったポートレートとも呼べない代物ばかりが残っているのだ。これはたぶん私だけの話ではなく、古くから旅をしている人の『あるある』として、よく出てくる話だ。
そんな中でも、たまに街角のスナップが紛れていることがある。銀塩カメラの時代の写真は、GPS情報はおろか、前後の繋がりやタイムスタンプもないので、どこで撮ったのか、何が琴線に触れて写真を残したのか、覚えていないことも多々ある。
上の写真も紛れていた街角のスナップである。ただしなんとなく場所には覚えがあった。たしかロンドン塔に行ったあと、路上でバスに飛び乗って、降りた辺りだったような記憶がかすかに残っている。ただこの写真は8月12日の最後の写真で、この次にどこに行ったのかは覚えていない。もしかしたら投宿していたのがこの近くだったかも知れない。
なんとなく覚えている周辺をgoogle mapやストリートビューで探ってみると、案外簡単にたどり着けてしまった。店などはすべて変わってしまっているが、道路左側に並ぶ建物の形が完全に一致するので間違いないはずだ。チューブのナイツブリッジ駅付近だった。
ストリートビューでは撮影時期を変えてみることも可能だ。左側の建物に国旗がかかっているのが何十年も変わっていないのも、なんだかイギリスらしく思えたりする。
【写真】1997年8月
【文章】2019年8月