台湾でもパンダは人気がある。ただしここで言うパンダはジャイアントパンダのことだとご理解頂きたい。台北の動物園でもパンダに会える。街中では写真のような看板も見つけた。とはいえ、パンダは中国の象徴的な動物の一つではあっても、台湾で象徴的とは言えないと思う。
そもそもパンダは中華圏全域に生息するわけではない。中国の中でも、四川省などの限られた極々狭いエリアに生息しているだけだ。だから台北の動物園にいるパンダも、元々台湾にいたものではなく、中国から寄贈されたものである。
ご存知の通り、中国はパンダを外交カードとして使っており、『パンダ外交』などと揶揄されている。日本に初めてパンダがやってきたのは私が生まれる直前、1972年の日中国交正常化を記念してのものだった。台湾にパンダがやってきたのは、日本と比較すると非常に記憶に新しい話で、確か2006年のことである。
中国と台湾(中華民国)とのバランスは非常に微妙である。そもそも中国は台湾を国とは認めていないし、台湾でも常に親中派と対中派が議論を戦わせている。中国がパンダの贈呈を決めたのも、いわゆる対中派である民進党の陳水扁政権への揺さぶりと言われている。ただし台湾と協議して決まったわけではなく、中国の一方的な発表だったので、受け入れ態勢の問題などもあり、台湾では大きな話題になった。
揺さぶりが直接的に功を奏したのかは定かでないが、それから2年も経たない2008年、8年続いた民進党政権から、親中派の国民党に政権が戻る。そしてさらに8年後、次はもう一度民進党に政権が移り、中華圏初の女性指導者、蔡英文政権が誕生する。
愛らしく人気者のパンダであるが、それを飼育したり、自然淘汰から保護したりするのも、そもそも人間のエゴなのかも知れない。そして彼らとはなんら関係のない国同士の駆け引きに使われるというのもまたエゴなのだろうと思う。その善悪は私にはわからないが。
【写真】2010年1月
【文章】2018年8月